先に結論
投げる側の肩の内側にひねる動き(内旋)が硬くなると、肘にかかる負担が増えやすくなります。高校の野球・ソフトボール選手では内旋が反対側より25度以上少ない選手でけがのリスクが約4倍、プロの投手では肩の回る範囲の左右差が5度を超えると肘のけがのリスクが2.6倍だったという研究があります。肩の後ろを伸ばすクロスボディストレッチ・スリーパーストレッチ・肩の内旋ストレッチを、投げたあとや入浴後に続けましょう。
Q. 野球肘の予防にどんなストレッチがいい?
A. 肩の後ろの硬さをとるクロスボディストレッチ・スリーパーストレッチ・肩の内旋ストレッチと、脇の下を伸ばす広背筋ストレッチがおすすめです。左右差をこまめに確かめながら続けます。
肩の後ろが硬いと肘に負担がかかる理由
投球をくり返すと、投げる側の肩は外にひねる動き(外旋)が大きくなる一方で、内にひねる動き(内旋)が小さくなる傾向があります。内旋が小さくなる大きな理由は、ボールを離したあとにブレーキをかける肩の後ろの筋肉や関節包が硬くなることです。

肩の後ろが硬いと腕の骨の頭が前に押し出され、投球の最後に肩で受け止めきれない力が肘に伝わります。その結果、肘の内側が引っぱられたり外側がぶつかったりして、野球肘につながりやすくなります。研究でも高校の野球・ソフトボール選手では投げる側の内旋が25度以上少ない選手でけがのリスクが約4倍でした【1】。プロの投手では肩の回る範囲(内旋と外旋の合計)の左右差が5度を超えると肘のけがのリスクが2.6倍、肩を上げる動きの左右差が5度以上で2.8倍でした【2】。
自分でできる左右差のチェック
- 仰向けに寝て、肩を横に90度開き、肘を90度に曲げて前腕を天井に向けます。
- 肩の前が浮かないようにもう一方の手で押さえ、前腕を足の方へ倒します(内旋)。
- 左右で比べ、投げる側の倒れる角度が明らかに小さければ肩の後ろが硬いサインです。
家族やチームメイトに横から見てもらうと比べやすくなります。正確な角度は医療機関や接骨院で測ってもらいましょう。
肩の後ろを伸ばすストレッチ4選
1. クロスボディストレッチ
伸ばしたい腕を胸の前で反対側に水平に引き寄せ、反対の手で肘を押さえて30秒保ちます。肩甲骨が一緒に動くと肩の後ろが伸びないので、横向きに寝て肩甲骨を床で押さえた状態で行うとより効果的です。肩の後ろが硬い人を対象にした比べる研究では、このストレッチを4週間続けた群で内旋が平均20度増え、何もしない群(約6度)より大きく改善しました【3】。
2. スリーパーストレッチ

- 伸ばしたい方の肩を下にして横向きに寝ます。
- 肩を前に90度上げ、肘を90度に曲げます。
- 反対の手で手首を持ち、前腕をゆっくり床の方(手のひら側)へ倒します。
- 肩の後ろが伸びるところで20〜30秒保ち、3回くり返します。
野球選手で行った研究では、1回のスリーパーストレッチの直後に投げる側の内旋が広がりました【4】。肩の前に痛みが出る場合は、体を少し後ろに倒すか角度を浅くしてください。
3. 肩の内旋ストレッチ(片膝立ち)

片膝立ちになり、伸ばしたい側の手の甲を腰に当てます。反対の手で肩の前を軽く押さえ、体をゆっくり起こすと肩の後ろが伸びます。20〜30秒を3回。グラウンドでも道具なしでできるので、練習後のクールダウンに取り入れやすい方法です。
4. 広背筋ストレッチ(四つ這い)

四つ這いになり、伸ばしたい肩の斜め前(右肩なら左斜め前)に両手をそろえてつきます。手の位置は変えずにお尻をかかとの方へ引き、脇の下から背中が伸びるところで20秒を3回。広背筋が硬いと腕を上げる動きが小さくなり、肩を上げる動きの左右差にもつながります。
いつ・どれくらい行うか
- タイミング:投球練習や試合のあとのクールダウンと、入浴後がおすすめです。
- 回数:各ストレッチ20〜30秒を3回、毎日続けます。
- 確かめる:週に1回は左右差のチェックをして、差が縮まっているかを見ます。
- 肩だけでなく全身も:肘の負担は肩だけでなく胸郭や股関節の硬さとも関係します。全身の予防運動は「野球肘を予防するストレッチとエクササイズ」で紹介しています。
肘の内側や外側の痛み・肘が伸びきらない・投げると肘がひっかかるといった症状があるときは、ストレッチで様子を見ずに早めに状態を確かめてください。成長期の野球肘は早く見つけるほど投球再開までの期間が短く済みます。くわしくは「野球肘(肘の内側・外側の痛み)」をご覧ください。
よくある質問
Q. スリーパーストレッチとクロスボディストレッチはどちらがいいですか?
A. 比べた研究ではクロスボディストレッチの方が内旋の改善が大きかったので、まずクロスボディストレッチを基本にして、スリーパーストレッチを組み合わせるのがおすすめです。
Q. 投げる前にストレッチしてもいいですか?
A. 投げる前は腕を回すなどの動きながらのストレッチを中心にし、長く止めるストレッチは投球後やお風呂上がりに行うのがおすすめです。
Q. 小学生でも肩の内旋は硬くなりますか?
A. 投球数が多いと小学生でも硬くなります。成長期は骨が弱く肘をけがしやすいので、早いうちからストレッチを習慣にしましょう。
Q. ストレッチで肩の前が痛くなります。
A. 角度が深すぎるか、肩の前の組織が刺激されている可能性があります。角度を浅くしても痛む場合は中止して相談してください。
Q. 左右差はどれくらいなら大丈夫ですか?
A. 研究では内旋が反対側より25度以上少ない場合や、回る範囲の合計に5度を超える差がある場合にけがが増えていました。差が大きいときはストレッチを続けながら投球数にも注意しましょう。
参考文献
- Shanley E, et al. Shoulder range of motion measures as risk factors for shoulder and elbow injuries in high school softball and baseball players. Am J Sports Med. 2011;39(9):1997-2006.
- Wilk KE, et al. Deficits in glenohumeral passive range of motion increase risk of elbow injury in professional baseball pitchers: a prospective study. Am J Sports Med. 2014;42(9):2075-81.
- McClure P, et al. A randomized controlled comparison of stretching procedures for posterior shoulder tightness. J Orthop Sports Phys Ther. 2007;37(3):108-14.
- Laudner KG, et al. The acute effects of sleeper stretches on shoulder range of motion. J Athl Train. 2008;43(4):359-63.
エクササイズ画像:提供 株式会社リハサク(骨模型の写真を除く)













