執筆・監修:今西 博昭(宜野湾スポーツ接骨院 院長/柔道整復師/日本超音波骨軟組織学会 評議員) プロフィールを見る ▼
「投げると肘が痛い」「少し休んだら痛みが引いたからまた投げている」
成長期の野球選手の肘の痛みは、ただの使いすぎに見えて、実は骨や軟骨に変化が起きていることがあります。そしてやっかいなのは、痛みの強さと肘の中で起きていることが一致しないことです。
この記事では、院長が柔道整復師向けの勉強会や地域の野球チームでの講演で使っている資料とエコー画像をもとに、保護者の方・指導者の方・選手本人に知っておいてほしいことをまとめました。少し長くなりますが、お子さんの肘を守るために大切なことばかりです。
この記事の要点
- 肘の内側の障害(内側上顆の障害)は段階を追って進みます。早い段階で見つけ、骨がつくタイミングに合わせて体外衝撃波やLIPUS(低出力超音波)を組み合わせると、早く投球に戻れることがあります
- 内側の障害で骨がつかないまま成長すると、高校生になってから肘の靱帯がゆるむリスクが高くなることが報告されています
- 肘の外側の離断性骨軟骨炎(OCD)は痛みが出にくく、痛くなってから見つかると進行していることが多い障害です。検診で早く見つかった選手は手術をせずにすむ割合が高いことがわかっています
- だからこそ、痛みがなくても定期的なエコー検査が大切です
- 治療は投球中止と固定・LIPUSや体外衝撃波・手技とストレッチ・運動療法・フォームと投球数の見直しを時期に合わせて組み合わせます。手術が必要な状態が疑われるときは医療機関と連携します
- 投球は足から指先までの連動です。肘だけでなく肩・体幹・股関節・足首まで全身をチェックし、患部以外の硬さや弱さも改善することが再発予防につながります
目 次
野球肘とは:内側・外側・後ろ側の3つのタイプ
野球肘は、投球のくり返しで肘に起こる障害の総称です。痛む場所によって大きく3つに分けられます。
| タイプ | 主な病態 | 起こりやすい年代 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 内側型 | 内側上顆(肘の内側の出っぱり)の骨端の障害/内側の靱帯(内側側副靱帯)の損傷 | 小学校高学年〜中学生/高校生以降は靱帯 | 最も多いタイプ 投げると内側が痛む |
| 外側型 | 上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(OCD) | 10〜14歳ごろ | 数は少ないが痛みが出にくく 進むと手術が必要になることがある |
| 後方型 | 肘頭(肘の後ろの骨)の骨端や疲労骨折/骨のとげ | 中学生〜高校生 | 投げ終わりに肘の後ろが痛む |
どれくらいの選手に起きているのでしょうか。福島県で6〜17歳の野球選手4,249人の肘をエコーで調べた研究では、内側上顆に変化がある選手は、変化がない選手より肘の痛みの経験が多く(68.0%と39.1%)、内側上顆の変化は11〜12歳で最も多く見られました【1】。外側のOCDは、どの年代でもおよそ2%に見られています【1】。
中学生・高校生2,433人を調べた別の研究では、OCDは3.4%に見つかり、野球を始めた年齢が早い選手、野球歴が長い選手に多いという結果でした【2】。
数字だけ見ると「外側は少ない」と感じるかもしれません。しかし後で説明するように、外側のOCDは痛みが出にくく、見つかるのが遅れると手術が必要になることがある障害です。数が少ないからこそ、意識して探さないと見逃されます。
内側の野球肘(内側上顆の障害)は「見つける時期」と「当てるタイミング」
内側の障害は4つの段階で進む
成長期の肘の内側には、まだ骨になりきっていない骨端(成長軟骨を含む骨の端)があります。投球のたびに前腕の筋肉と内側の靱帯がここを引っぱるため、くり返されると骨の端に障害が起こります。
この障害は、次のように段階を追って進みます。
図:内側上顆の障害の進み方(参考資料をもとに作図)
- 発生期:骨の端に透けたような変化が出る
- 分節期:骨の端が分かれ始める
- 裂離期:骨片がはがれる
- 隔絶期:骨片が離れたまま 間にかたい組織(瘢痕)が入りこむ
大切なのは、早い段階で投球を休めば骨はきれいにつきやすい一方、痛くても投げ続けると段階が進み 骨片が離れたまま残りやすくなることです。骨片がくっつかないまま成長すると、肘の内側の靱帯がしっかり働けなくなることがあります。
痛みが一度引いても、骨がついたとは限りません。痛みが引いた時期と骨がついた時期はずれるため、再開の時期はエコーで骨の状態を確かめながら決めることが大切です。
骨がつかないまま成長すると高校生で靱帯の問題につながる
高校野球選手3,034人を調べた研究では、内側上顆に骨片が分かれたままの変化(分節型)が残っている選手は、変化がない選手と比べて
- 肘の痛みの経験が約3.9倍
- 肘の内側に外から力をかける検査で陽性(靱帯のゆるみを示す)になるのが約3.5倍
という結果でした【3】。著者らは「修復しきっていない内側上顆の障害が残ると 肘の痛みと内側の靱帯の機能不全のリスクが高い」とまとめています。
つまり、小学生・中学生のうちに内側の障害を見つけ、骨がつくまでしっかり対応しておくことは、高校・大学で野球を続けるための準備でもあります。
体外衝撃波とLIPUSを使うタイミング
内側の障害の基本は、投球を休むこと、肘に負担をかけている体の使い方を見直すことです。そのうえで当院では、段階に合わせて次の2つを組み合わせることがあります。
| 方法 | どんなもの | 当院で使う場面 |
|---|---|---|
| LIPUS(低出力超音波パルス) | 温めない弱い超音波を骨に当てる方法 骨折の治療で使われてきた | 骨片がはがれかけている・はがれた段階で 骨がつくのを助ける目的 |
| 体外衝撃波(拡散型) | 圧力の波を体の外から当てる方法 長引く腱や付着部の痛みに使われる | 骨片が離れたまま時間がたっている段階や 痛みが長引いている付着部に |
研究ではどうでしょうか。肘のOCDにLIPUSを使った研究では、画像上の修復までの期間が平均4.5か月と、使わなかったグループの平均6.8か月より短くなりました【4】。成長期の骨端の障害に体外衝撃波を使った報告もあり、オスグッド病では長く続く痛みの選手に使って多くが競技に戻れたこと【5】、体操選手の坐骨(お尻の骨)の骨端の障害では8人全員が痛みなく競技に戻り、成長軟骨が早く閉じる変化は見られなかったこと【6】が報告されています。
研究の読み方と当院の考え方
肘の内側上顆の障害そのものに体外衝撃波を使った質の高い研究は、まだ多くありません。そのため当院では「誰にでも当てる」のではなく、エコーで段階と骨の成長具合を確かめ 骨がつきにくい時期に入っているかどうかを見たうえで使うかどうかを判断しています。成長期のお子さんでは成長軟骨(骨端線)の真上には当てない運用をしています。痛みが強い初期や骨折が疑われるときは、まず投球中止と固定を優先し、必要に応じて連携する医療機関をご案内します。「使えばすぐ良くなる道具」ではなく、正しい段階で 正しい場所に 正しいタイミングで使うことで、休む期間を無駄にしないための方法と考えています。体外衝撃波については体外衝撃波のページ、子どものLIPUSの安全性については子どものLIPUSは安全?でくわしく説明しています。
当院の例:14歳投手が約3週間で塁間のキャッチボールへ
実際の例をご紹介します(ご本人が特定されないよう一部を省略しています)。
14歳 中学野球部のピッチャー(右投げ)。小学生から野球を続けていて、2年ほど前から右肘の内側に痛みがあり、痛みが強くなって来院しました。肘の内側の出っぱり(内側上顆)を押すと痛みがあり、肘の曲げ伸ばしの制限はありませんでした。
エコーで左右を比べると、痛む側では内側上顆の骨の輪郭が分かれ、骨片がはがれたような像が見られました。段階としては裂離期から隔絶期と判断しました。2年近く痛みを抱えながら投げていたことで、段階が進んでいたと考えられます。
そこで、体外衝撃波とLIPUS、肘の可動域の運動に加えて、肘以外のトレーニングを始めました。翌日にはフィジカルチェック(全身の柔軟性と筋力の検査)を行い、肩の後ろの硬さ、股関節の内側へのひねりの硬さ、足首の硬さ、肩甲骨まわりの筋力の弱さが見つかりました(くわしくは5章)。
経過は、初回から11日後に5mのキャッチボールを痛みなく再開し、約3週間後には塁間のキャッチボールまで進むことができました。
この例で伝えたいことは2つです。1つは、段階に合わせた方法を組み合わせると、休むだけの場合より早く投球に戻れることがあるということ。もう1つは、2年間がまんせずにもっと早く来てくれていれば もっと早い段階で対応できたということです。経過は一人ひとり違い、段階や体の状態によって再開までの期間は変わります。
外側の野球肘(OCD)は早く見つけるほど手術のリスクが下がる
OCDとは:痛みが出にくい外側の障害
離断性骨軟骨炎(OCD)は、肘の外側にある上腕骨小頭(丸い形の骨)の軟骨とその下の骨が傷み、進むとはがれてしまう障害です。投球で肘の外側が押しつぶされる力がくり返しかかることが関係すると考えられています。
OCDの怖いところは、初期にはほとんど痛みがないことです。徳島県で15年間続けられている小学生の野球肘検診では、エコー検診で見つかったOCDの選手のうち、肘の外側に痛みを感じたことがあったのは10.8%だけでした【7】。9割近くの選手は、痛みがないまま見つかっています。
OCDは次のように進みます。
- 透亮期(初期):骨が透けたように見える
- 分離期(進行期):傷んだ部分が周りの骨と分かれてくる
- 遊離期(末期):骨と軟骨のかけらがはがれて関節の中に出る(関節ねずみ)
遊離期になると、肘が急に動かなくなる(ロッキング)、伸びきらない、曲がりきらないといった症状が出て、手術が必要になることが多くなります。
上の画像は、肘を深く曲げて後ろから上腕骨小頭を横に切るように当てた短軸像です。正常では小頭の表面がなめらかな弧を描きますが、OCDの選手では表面の線が途切れ、骨がでこぼこに乱れています。当院の野球肘エコーチェックでは、このように前から・後ろから 縦と横の両方向で小頭を確かめます。
ハンドボールで肘の外側が痛くなった11歳の選手の例もご紹介します。この選手は以前から何度か違和感があり、エコーで上腕骨小頭の表面に乱れが見られました。当院では肘を固定してLIPUSを始め、連携する医療機関をご案内しました。
ただし、この例では経過の途中で痛みが落ち着いたあとに投球を再開したところ、再び悪化して、ギプスでの固定が必要になりました。OCDは痛みが引いても修復が終わったとは限らないことを、あらためて教えてくれた例です。
検診で見つかった選手と痛くて受診した選手の違い
早く見つけることがどれほど大切かを示したデータがあります。野球肘検診で見つかったOCDと、痛くなってから病院を受診して見つかったOCDを比べた研究です【8】。
出典:斎藤ら 日本肘関節学会雑誌 2016(検診群14肘・外来群22肘)
- 検診で見つかった選手:初期(透亮期)が38% 末期(遊離期)は15% → 手術をしない治療(保存療法)が71%
- 痛くて受診した選手:初期は0% 末期が45% → 保存療法は9% 手術が91%
同じ病気でも、見つかった時期によって 手術をせずにすむかどうかが大きく変わることがわかります。痛くなるのを待っていては遅いことがある。これがOCDの最も大切なポイントです。
初期のOCDは固定と投球中止で修復をめざす
OCDの長期の経過を調べた研究では、手術をせずに完全に修復した選手には共通点がありました。成長軟骨がまだ閉じていない 傷みが初期の段階にとどまっている 肘の動きがよいことです【9】。逆に、成長軟骨が閉じている、かけらが分かれている、肘の動きが20°以上制限されている場合は、手術のほうが良い結果になっていました【9】。
また、初期で安定したOCDの選手43人を比べた研究では、投球中止だけのグループに比べて、ギプスと装具で肘を固定したグループは
- 完全に修復した割合:92%(投球中止だけのグループは41%)
- 完全修復までの期間:平均5.5か月(同16.4か月)
- 競技に戻るまでの期間:平均4.4か月(同8.2か月)
という結果でした【10】。初期に見つけて しっかり固定して 投げない期間を守ることで、手術を避けられる可能性が高くなり、結果として早く競技に戻れます。
「数か月も投げられないのはつらい」と感じるお子さんも多いと思います。しかし手術になれば、さらに長い時間がかかります。投げない期間も、下半身や体幹、反対側の腕のトレーニングは続けられます。当院では、その期間を体を作り直す時間として一緒に計画します。
痛みがなくても定期的なエコー検査を
ここまで読んでいただいたとおり、内側の障害も外側のOCDも、痛みだけを頼りにすると見つかるのが遅れることがあります。そこで大切なのが、痛みがないうちから行う定期的なエコー検査です。
徳島県の検診では、エコーで検診したときのOCDの確定率は65.8%で、体の検査(押して痛いか・動きの制限など)だけで検診したときの1.9%を大きく上回りました【7】。見つかったOCDの73.3%が初期の段階でした【7】。
エコーは放射線を使わないので、成長期のお子さんでも何度でもくり返し確かめられます。その場で画面を見ながら説明できるのも利点です。当院では次の5方向から肘を観察します。
定期エコー検査の目安(当院のおすすめ)
- 対象:小学4年生〜中学生の野球選手 とくにピッチャー・キャッチャー 野球歴が長い選手
- 時期:シーズン前とシーズン中 新チームが始まる時期など 年に数回
- すぐに受けてほしいとき:投げると肘が痛い 肘が伸びきらない・曲がりきらない 以前に肘を痛めたことがある
当院の野球肘エコーチェックは、痛みがない選手でも受けられます。チームでの検診や地域のイベントでも行ってきました。WEB予約で「野球肘エコー検査」を選んでいただくか、お電話・LINEでご予約ください。
一度「異常なし」でも、成長期の肘は数か月で変わります。1回きりではなく くり返し確かめることに意味があります。レントゲンでは写りにくい変化をエコーで見つけられることについては、「レントゲンで異常なし」と言われたのに痛いでも説明しています。
肘だけを見ない:フィジカルチェックで全身を整える
野球肘は肘の病気ですが、原因が肘だけにあるとは限りません。投球は、足で地面を押し、股関節と体幹をひねり、肩と肘を通して指先からボールに力を伝える全身の連動です。
どこかが硬かったり弱かったりすると、その分を肘が無理をして補うことになります。たとえば股関節が硬くて体がうまく回らないと、腕だけで投げる形になり、肘の内側にかかる負担が増えます。肘だけを治療して投球に戻っても、体の使い方が同じなら また同じところを痛めることになりかねません。
そこで当院では、肘の痛みで来院した選手にも、全身のフィジカルチェックを行います。先ほどの14歳の投手のチェック結果の一部を紹介します。
| チェック項目 | 目安 | 14歳投手の結果 |
|---|---|---|
| 肩の後ろの柔軟性(HFT・CAT) | 陰性 | 投げる側で陽性(硬い) |
| 肩の内側へのひねり | 60° | 30° |
| 股関節の内側へのひねり | 45° | 10°(左右とも) |
| 足首を上に反らす動き | 20° | 5°(左右とも) |
| もも裏の柔軟性(SLR) | 90° | 70° |
| 肩甲骨まわりの筋力(中・下部僧帽筋) | 5段階の5 | 3 |
| しゃがみこみテスト | 手を後ろで組んでしゃがめる | できない |
肘の痛みで来た選手ですが、問題は肩・股関節・足首・肩甲骨まわりにも広がっていたことがわかります。この選手には、投球を休んでいる間からこれらの改善に取り組んでもらいました。患部以外を整えることは、復帰を早めるだけでなく、再発を防ぐためにも欠かせません。
あわせて大切なのが投球数の管理です。アメリカで9〜14歳の投手476人を1シーズン追った研究では、試合とシーズンを通じた投球数が多いほど肘と肩の痛みが増えていました【11】。日本臨床スポーツ医学会は、全力投球数の目安を小学生で1日50球・1週200球以内 中学生で1日70球・1週350球以内としています【12】。
当院のフィジカルチェックの内容はフィジカルチェックのページで紹介しています。
野球肘の治療法:タイプと段階に合わせて組み合わせる
野球肘の治療は「何か1つをすれば良くなる」ものではありません。タイプ(内側・外側・後ろ側)と段階、成長軟骨が閉じているかどうか、体の硬さや弱さによって、組み合わせと順番が変わります。ここでは当院の考え方と、医療機関で行われる治療も含めて整理します。
治療の全体の流れ
| 時期 | 目的 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 保護期 | 痛みと炎症をおさえ 悪化を止める | 投球中止/必要に応じてシーネ・装具で固定/LIPUS/アイシング |
| 修復期 | 骨・軟骨・付着部の修復を進める | LIPUS/段階によって体外衝撃波/肘以外のトレーニングを開始 |
| 機能改善期 | 肘に負担が集まる原因を取り除く | 前腕・肩・肩甲骨・胸郭・股関節・足首の柔軟性と筋力の回復 |
| 投球再開期 | 安全に投球へ戻る | 段階的な投球プログラム/投球フォームの見直し |
| 予防期 | 再発させない | 投球数の管理/定期エコー/フィジカルチェックとセルフケアの継続 |
どの時期も、痛みだけでなくエコーで骨や軟骨の状態を確かめてから次へ進むのが当院の基本です。痛みが引くのは骨がつくより先になることが多いため、痛みだけで判断すると早すぎる再開につながります。
投球の中止と固定
治療の土台は、肘にかかる負担を減らすことです。
- 内側の障害:初期は投球を休むことで骨がつきやすくなります。骨片がはがれかけている段階では、一時的にシーネや装具で肘を守ることがあります。投球は休んでも、走る・下半身や体幹を鍛える・反対の腕で投げる練習などは続けられることが多いです
- 外側のOCD:初期で安定している場合は、固定と投球中止が中心です。先に紹介したとおり、ギプスと装具で固定したグループは完全修復の割合が高く、期間も短いことが報告されています【10】。OCDではバッティングや腕立て伏せなど肘に体重や衝撃がかかる動きも控えます
- 後ろ側の障害:投げ終わりに肘が伸びきる動きをくり返すことで起こるため、投球を休むとともに、肘の伸ばし方やフォームを見直します
「休ませる」と聞くと何もしない期間に思えますが、投げない期間こそ体を作り直すチャンスです。当院では休む期間の過ごし方まで具体的にお伝えします。
物理療法:LIPUSと体外衝撃波
当院で野球肘に使う主な物理療法は次の2つです。
- LIPUS(低出力超音波パルス):温めない弱い超音波を1回20分ほど当てます。骨折の治療に使われてきた方法で、肘のOCDでは修復までの期間が短くなったという報告があります【4】。痛みや熱さはほとんどありません。当院では1回1,360円(自費・2026年10月時点)です
- 体外衝撃波(拡散型):圧力の波を当てる方法です。骨片が離れたまま時間がたっている内側の障害や、長引く付着部の痛みに使うことがあります。成長期では成長軟骨の真上には当てず、段階を確かめたうえで使います。1部位3,980円(エコー観察込み・自費・2026年10月時点)です
どちらも「当てれば良くなる」ものではなく、投球の中止・固定・運動と組み合わせて初めて意味があります。最新の料金は料金ページでご確認ください。
手技とストレッチ:硬くなった部分をゆるめる
投球をくり返す選手は、投げる側の腕や肩まわりが硬くなっていることがほとんどです。当院では手技で硬さをゆるめ、自宅でも続けられるストレッチをお伝えします。
- 前腕の筋肉(手首や指を曲げる筋肉):肘の内側に付いている筋肉で、硬くなると内側を引っぱる力が強くなります
- 肩の後ろ(スリーパーストレッチ):肩の後ろが硬いと腕が内側にひねれず、肘で無理に補う投げ方になります
- 胸と背中(胸椎の回旋ストレッチ):胸郭が硬いと胸を張れず、腕が遅れて出てきます
- 股関節(内側へのひねり・Hip 90/90):踏み出した脚の股関節が硬いと体がうまく回らず、腕だけで投げる形になります
- もも裏と足首:下半身が硬いと低い姿勢がとれず、上半身に頼った投げ方になります
ストレッチは1つにつき30秒〜1分ほど、伸びている感じを意識して行います。毎日続けることで少しずつ変わっていきます。
運動療法:肘を守る筋力をつける
柔軟性と並んで大切なのが筋力です。とくに次の筋肉は、投球のときに肘を内側から支える、肩を安定させる、全身の力を腕に伝えるという役割があります。
| 部位 | 役割 | トレーニングの例 |
|---|---|---|
| 前腕(手首・指を曲げる筋肉) | 投球時に肘の内側を筋肉で支え 靱帯や骨端の負担を減らす | 軽い重りやボールを握る運動 手首の曲げ伸ばし |
| 肩甲骨まわり(中部・下部僧帽筋) | 肩甲骨を安定させ 腕を正しい位置で振る | うつ伏せで腕を斜め上に上げる運動 |
| 肩の外へひねる筋肉(腱板) | 腕を上げた位置で肩を支える | うつ伏せで肘を曲げて外へ開く運動(ゼロポジション外旋) |
| 体幹 | 下半身の力を上半身へ伝える | 押されても姿勢を保つ運動 体幹の回旋運動 |
| 股関節・お尻・脚 | 軸脚で体重を支え 踏み出しで体を回す | 片脚立ち スクワット ランジ |
運動の内容と量は、フィジカルチェックの結果と年代に合わせて決めます。成長期は重い重りよりも、自分の体重を正しくコントロールできることを優先します。
投球フォームと投球数の見直し
肘に負担がかかりやすいフォームには、肘が肩より下がる、体が早く開く、踏み出した脚の膝が内側に入る、腕だけで投げるといった特徴があります。これらは肘そのものより、股関節や体幹・肩甲骨の硬さや弱さの結果として起きていることが多いため、フォームだけを直そうとせず体の機能と一緒に改善します。
あわせて、投球数と練習日数の管理も治療の一部です。
- 全力投球数の目安(日本臨床スポーツ医学会):小学生 1日50球・1週200球以内 中学生 1日70球・1週350球以内【12】
- 週に1日以上は投げない日をつくる
- 複数のチームをかけもちしている場合は 合計の投球数で考える
- 痛みや疲れがあるときは投げない
選手本人だけでなく、保護者の方・指導者の方と一緒に計画を立てることが大切です。
手術が検討されるとき
多くの野球肘は手術をしない治療で投球に戻れますが、次のような場合は医療機関で手術が検討されます。当院では、こうした状態が疑われるときに連携する医療機関をご案内し、手術の前後のリハビリも一緒に進めます。
出典:Takahara M, et al. J Bone Joint Surg Am 2007 などをもとに作成
- 外側のOCD:成長軟骨が閉じている、かけらが分かれている・はがれている、肘の動きが20°以上制限されている、引っかかりがある、保存療法を続けても改善しないなどの場合【9】。傷んだ部分を取り除く手術、かけらを固定する手術、ひざなどから骨と軟骨を移植して関節の面を作り直す手術などがあり、移植や固定のほうが取り除くだけより良い結果だったと報告されています【9】
- 内側の障害:骨片がつかないまま痛みや不安定さが続く場合に、骨片の固定や摘出が検討されることがあります
- 高校生以降の内側側副靱帯の損傷:保存療法が基本ですが、高いレベルで投げ続けたい選手で改善しない場合には、靱帯を作り直す手術(いわゆるトミー・ジョン手術)が検討されることがあります
手術になると、競技に戻るまで長い時間がかかります。だからこそ、手術が必要になる前に見つけることがこの記事で一番伝えたいことです。
しびれがあるときは神経のチェックも
肘の内側から小指にかけてしびれる、握力が落ちたという場合は、肘の内側を通る尺骨神経が関係していることがあります。投球で肘を曲げ伸ばしするたびに神経がずれる(脱臼する)選手もいます。当院ではエコーで肘を曲げ伸ばししながら神経の動きを確かめ、ストレッチや前腕のトレーニング、肩や首まわりの評価を行います。
投球再開は段階的に
骨や軟骨の状態が落ち着き、全身の硬さや弱さが改善してきたら、投球を少しずつ再開します。当院では次のような段階で進めます【13】。
- シャドーピッチング
- ネットスロー
- 塁間の半分
- 塁間
- 対角線(一塁から三塁)
- さらに10〜15m延ばす(投手はその後ブルペンへ)
- はじめは5割くらいの力で投げ 7〜8割へと上げていく
- 全力で痛みなく投げられたら次の段階へ
- 痛みが出たら1つ前の段階に戻る
- 野手は5の段階まで 投手は6以降にブルペンでの投球へ
各段階の前後でエコーと体の状態を確かめ、急ぎすぎないように進めることが大切です。
こんなときはご相談ください
- 投げると肘の内側・外側・後ろ側が痛む
- 肘が伸びきらない 曲がりきらない 左右で動きが違う
- 一度休んで痛みが引いたが 再開したらまた痛くなった
- 肘に引っかかる感じがある 急に動かなくなったことがある
- 痛みはないが ピッチャーやキャッチャーを任されている
- 以前に野球肘と言われたことがあり 今の状態を確かめたい
当院ではエコーで肘の状態を確かめ、骨折や手術が必要な状態が疑われるときは、連携する医療機関をご案内します。肘の痛みや野球肘について、くわしくは野球肘のページと離断性骨軟骨炎のページもご覧ください。新チームの時期に気をつけたいサインは少年野球の新チーム期に増える野球肘にまとめています。
よくあるご質問
Q. 痛みがなくても野球肘のエコー検査を受けたほうがいいですか?
Q. 内側の野球肘と言われました。どれくらい休めばいいですか?
Q. 体外衝撃波やLIPUSは子どもでも受けられますか?
Q. OCDと言われたら手術が必要ですか?
Q. 接骨院では野球肘にどんな治療をしますか?
Q. 野球肘で手術が必要になるのはどんなときですか?
Q. 肘が痛いのに、なぜ股関節や足首まで調べるのですか?
Q. 平日の練習後や土日でも見てもらえますか?
お子さんの肘 痛くなる前に確かめませんか
宜野湾スポーツ接骨院(沖縄県宜野湾市伊佐)では、エコーで肘の内側・外側・後ろ側を確かめ、全身のフィジカルチェックとあわせて復帰までの計画をご提案します。
受付時間:平日 10:00〜14:00/16:00〜21:00 土日祝 10:00〜13:00/14:00〜17:00(水曜午前は休み)
参考文献・資料
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内側上顆障害の段階の図は「肘実践講座 よくわかる野球肘 肘の内側障害 病態と対応」を参考に作図しました。症例は当院の経過の一例で、同じ経過をたどることを保証するものではありません。













